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生薬解説大棗たいそう

生薬解説 大棗

大棗 説明表示をクリック → 説明表示  いらっしゃいませ

中国における薬物の応用の歴史は非常に古く、独特の理論体系と応用形式をもつに至っており、現在では伝統的な使用薬物を「中薬」とよんでいます。

中薬では草根木皮といわれる植物薬が大多数を占めるところから、伝統的に薬物学のことを「本草学」と称しており、近年は「中薬学」と名づけています。

中薬学は、中薬の性味・帰経・効能・応用・炮製・基原などの知識と経験に関する一学科であり、中医学における治療の重要な手段のひとつとして不可分の構成部分をなしています。

【大分類】補虚薬…正気を補う中薬です。
【中分類】補気薬…気を補う中薬です。

キャッチコピー漢方薬の重要な「調整役」(薬理作用の衝突を和らげる)

【学名】…Zizyphus vulgaris lamarck var. inermis Bunge

【別名】…ナツメ、紅棗

 概要

クロウメモドキ科のナツメの果実で糖、粘液質、リンゴ酸、酒石酸などを含みます。強壮、鎮痛、利尿、緩和、筋肉の緊張による疼痛、過敏症、腹痛、咳漱、身痛に用います。
大棗は大きな棗(ナツメ)"という意味です。その果実は漢方薬の重要な"調整役"の一つとして、異なる成分の薬理作用の衝突を和らげるため、様々な処方箋によく加えられます。
大棗の色は黒ですが、紅棗は赤です。後者は同様の薬理作用がありますが、血の滋養により効果的であると考えられています。棗は一般に、湯に3から10個加えて服用します。


 生薬生産地

中国地図 【中国産地】…山東省、河南省、河北省、四川省、貴洲省、陜西省
【日本産地】…大阪の河内、岐阜県古河
【その他産地】…朝鮮
日本産無


 処方と調合

棗は治療薬を調和させるために処方箋に加えられます。
人参(チョウセンニンジン)と配合し。気の調和に使用します。
生姜(ショウガ)と配合し、衛気および営気の不調和、消化吸収の改善に使用します。
甘草(カンゾウ)および浮小麦(コムギエキス)と配合して臓腑のアンバランスに関連するヒステリー症の鎮静に使用します。


 伝統的薬能

脾臓と胃の気を強壮にする。
・営気と血を強化する。
・神を鎮める。
・他の生薬の薬理作用を緩和する。

薬物の治療効果と密接に関係する薬性理論(四気五味・昇降浮沈・帰経・有毒と無毒・配合・禁忌)の柱となるのが次に掲げる「性・味・帰経」です。

【温寒】… 温
※性:中薬はその性質によって「寒・涼・平・熱・温」に分かれます。例えぱ、患者の熱を抑える作用のある生薬の性は寒(涼)性であり、冷えの症状を改善する生薬の性は熱(温)性です。寒性涼性の生薬は体を冷やし、消炎・鎮静作用があり、熱性温性の生薬は体を温め、興奮作用があります。

生薬中薬)の性質と関連する病証
性質作用対象となる病証

寒/涼

熱を下げる。火邪を取り除く。毒素を取り除く。

熱証陽証陰虚証。

熱/温

体内を温める。寒邪を追い出す。陽を強める。

寒証陰証陽虚証。

熱を取り除き、内部を温める2つの作用をより穏やかに行う。

すべての病証。

 【補瀉】…  【潤燥】… 潤  【升降】…  【散収】… 収
【帰経】…脾
帰経とは中薬が身体のどの部位(臓腑経絡)に作用するかを示すものです。

【薬味】…甘  まず脾に入ります。
※味とは中薬の味覚のことで「辛・酸・甘・鹸・苦・淡」の6種類に分かれます。この上位5つの味は五臓(内臓)とも関連があり、次のような性質があります。
生薬中薬)の味と関連する病証
 味作用対象となる病証対象五臓

辛(辛味)

消散する/移動させる。体を温め、発散作用。

外証。風証。気滞証。血瘀証。

肺に作用。

酸(酸味)すっぱい。渋い。

縮小させる(収縮・固渋作用)。

虚に起因する発汗。虚に起因する出血。慢性的な下痢。尿失禁。

肝に作用。

甘(甘味)

補う。解毒する。軽減する。薬能の調整。緊張緩和・滋養強壮作用。

陰虚。陽虚。気虚。

脾に作用。

鹹(塩味)塩辛い。

軟化と排除。大腸を滑らかにする。しこりを和らげる軟化作用。

リンパ系その他のシステムが戦っているときの腫れ。

腎に作用。

苦(苦味)

上逆する気を戻す。湿邪を乾燥させる。気血の働きを活性化させる。熱をとって固める作用。

咳・嘔吐・停滞が原因の便秘。排尿障害。水湿証。肺気の停滞に起因する咳。血瘀証。

心に作用。

淡(淡味)

利尿。

水湿証。

【薬効】…補脾胃作用  強壮作用  養血安神作用  緩和薬性作用  鎮静作用 

【薬理作用】…胃腸機能の調節作用・鎮痙作用・薬性をやわらげて、味を矯正する。臨床的な観察によると、鎮静・利尿の作用もある。
●大棗にはcyclicAMP 100--500n mol/gが含まれており,アデニールシクラーゼ活性及びフォスフォジアスターゼ活性が認められる。
●緩和,強壮,利尿薬として,筋肉の急迫,牽引痛,知覚過敏を緩和し,咳,煩燥,身体の疼痛,腹痛等に応用する。
脾胃気虚に補助薬として使用する。補気の方剤に入れるときには、必ず生姜と一緒に用いる。生姜の刺激性を大棗で緩和し、大棗によって生じる腹部膨満を生姜で減少させる。大棗と生姜を同時に用いると、食欲が増し・消化が良くなるので、他の補気薬の作用がよくなる。 婦人の臓躁(更年期障害やヒステリーなどに相当する)に用いる。 “甘をもって急を緩める”というように、鎮痙作用を利用する。 薬性を緩和する。作用が激烈な薬物に配合すると、性質をやわらげて消化機能(脾胃)に対する傷害が少なくなる。辛味や苦味の薬物が多い処方にも使用して味を矯正し、薬性をやわらげる。
●強壮、利尿、鎮咳、健胃、鎮痛、鎮痙。

【用途】…緩和、強壮、利尿薬として、筋肉の急迫、牽引痛、知覚過敏を緩和し、咳、煩燥、身体の疼痛、腹痛等に応用する。

【学名】…Zizyphus vulgaris lamarck var. inermis Bunge

【禁忌】…湿の過剰、食物の停滞、痰があるときは使用を避けること。

●日本薬局方
【出典】…神農本草経
【三品分類(中国古代の分類)】… 神農本草経や名医別録などでの生薬分類法
上品(不老長生薬)


 生薬の画像

【基原(素材)】…クロウメモドキ科ナツメの果実を乾燥したものです。

図01:大棗(紅棗)


図02:大棗の植物全体図


図03:大棗の生薬画像


図04:大棗の植物全体図2


図05:大棗の生薬画像2


図06:大棗の花



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 方剤リンク

本中薬(大棗)を使用している方剤へのリンクは次のとおりです。関連リンク


  関連処方越婢加朮湯 »
  関連処方黄耆建中湯 »
  関連処方黄連湯 »
  関連処方葛根湯 »
  関連処方加味帰脾湯 »
  関連処方甘麦大棗湯 »
  関連処方帰脾湯 »
  関連処方桂枝湯 »
  関連処方五積散 »
  関連処方呉茱萸湯 »
  関連処方四君子湯 »
  関連処方炙甘草湯 »
  関連処方小建中湯 »
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  関連処方参蘇飲 »
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  関連処方大柴胡湯 »
  関連処方大防風湯 »
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  関連処方半夏瀉心湯 »
  関連処方防已黄耆湯 »
  関連処方補中益気湯 »
  関連処方平胃散 »
  関連処方六君子湯 »


生薬 生薬は、薬草を現代医学により分析し、効果があると確認された有効成分を利用する薬です。 生薬のほとんどは「日本薬局方」に薬として載せられているので、医師が保険のきく薬として処方する場合もあります。


中薬・中成薬 中薬は、本場中国における漢方薬の呼び名です。薬草単体で使用するときを中薬、複数組み合わせるときは、方剤と呼び分けることもあります。
本来中薬は、患者個人の証に合わせて成分を調整して作るものですが、方剤の処方を前もって作成した錠剤や液剤が数多く発売されています。これらは、中成薬と呼ばれています。 従って、中国の中成薬と日本の漢方エキス剤は、ほぼ同様な医薬品といえます。


生薬陳列

 生薬の書物の歴史

1.【神農本草経】(西暦112年)
中医薬学の基礎となった書物です。植物薬252種、動物薬67種、鉱物薬46種の合計365種に関する効能と使用方法が記載されています。
神農本草経

神農神農:三皇五帝のひとりです。中国古代の伝説上の人といわれます。365種類の生薬について解説した『神農本草経』があり、薬性により上薬、中薬、下薬に分類されています。日本では、東京・お茶の水の湯島聖堂 »に祭られている神農像があり、毎年11月23日(勤労感謝の日)に祭祀が行われます。



2.【本草経集注】(西暦500年頃)
斉代の500年頃に著された陶弘景(とうこうけい)の『本草経集注(しっちゅう)』です。掲載する生薬の数は、『神農本草経』(112年)の2倍に増えました。 本草経集注(しっちゅう)
松溪論畫圖 仇英(吉林省博物館藏)
松溪論畫圖 仇英(吉林省博物館藏)

陶弘景(456~536年)は、中国南北朝時代(420~589年)の文人、思想家、医学者です。江蘇省句容県の人です。茅山という山中に隠棲し、陰陽五行、山川地理、天文気象にも精通しており、国の吉凶や、祭祀、討伐などの大事が起こると、朝廷が人を遣わして陶弘景に教えを請いました。
そのために山中宰相と呼ばれました。庭に松を植える風習は陶弘景からはじまり、松風の音をこよなく愛したものも陶弘景が最初です。
風が吹くと喜び勇んで庭に下り立ち、松風の音に耳をかたむける陶弘景の姿はまさに仙人として人々の目に映ったことでしょう。



3.【本草項目】(西暦1578年)
30年近い歳月を費やして明代の1578年に完成された李時珍(りじちん)の『本草項目』です。掲載する生薬の数は、約1900種に増えました。
『本草綱目』は、1590年代に金陵(南京)で出版され、その後も版を重ねました。わが国でも、徳川家康が愛読したほか、薬物学の基本文献として尊重され、小野蘭山陵『本草綱目啓蒙』など多くの注釈書、研究書が著されています。
本草綱目は日本などの周辺諸国のみならず、ラテン語などのヨーロッパ語にも訳されて、世界の博物学・本草学に大きな影響を与えています。
本草項目
儒者・林羅山(1583~1657年)の旧蔵書

李時珍 李時珍(1518~1593年)は、中国明時代(1368~1644年)の中国・明の医師で本草学者。中国本草学の集大成とも呼ぶべき『本草綱目』や奇経や脉診の解説書である『瀕湖脉学』、『奇経八脉考』を著した。
湖北省圻春県圻州鎮の医家の生まれです。科挙の郷試に失敗し、家にあって古来の漢方薬学書を研究しました。30歳頃からあきたらくなって各地を旅行し調査したり文献を集めたりはじめます。ついに自分の研究成果や新しい分類法を加え、30年の間に3度書き改めて、1578年<万暦6年>『本草綱目』を著して、中国本草学を確立させました。
関連処方李時珍、生家にて »



4.【中医臨床のための中薬学】(西暦1992年)
現在、私が使用している本草の辞典です。生薬の記載個数は、約2,700種に増えました。
神戸中医学研究会の編著です。
中医臨床のための中薬学


区切り
ハル薬局

【薬用部分】…果実

 成分

betulinic acid、zyzyphus saponin、糖分、粘液質


【中国での一般的服用量】…10~30g


道教・八卦 人参

大棗の植物全体図

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