【大分類】補虚薬…正気を補う中薬です。
【中分類】補陰薬…陰液を補い、虚性の熱を制御する中薬です。
【学名】…Lycium chinense Mill.
【別名】…クコ
シナス科クコの果実でアミノ酸、ビタミンなどを含有します。
強壮薬として、肝腎を滋補し、虚労、無力感、めまい、頭痛、また血糖降下作用、抗脂肝作用があり、また利尿にも効果をあらわします。
中医学では、拘杞子の果実と根の皮(地骨皮)の両方を使用します。神農は、地骨皮を"邪気"の治療薬として上品"に属する木の一つに上げています。
しかし、現在では、果実のほうが治療薬として一般的です。実を使って作る元気回復のためのコンジー(お粥)は、性不能症、腰痛、めまい、耳鳴りを特徴とする腎の気虚の治療薬として、昔から家庭で食されています。
【中国産地】…寧夏回族自治区
万能の強壮薬として五味子(チョウセンゴミシ)と配合し、全身疲労に使用。
●菊花(キク)と配合し、肝の虚や視力低下、眼精疲労に使用(杞菊地黄丸)。
●当帰(カラトウキ〕および熱地黄(キツネノテブクロ)と配合し、肝の気の停滞に関連する消化不良に使用。
・肝と腎の陰に滋養を与える。
・血に滋養を与える。
・視力を回復する。
薬物の治療効果と密接に関係する薬性理論(四気五味・昇降浮沈・帰経・有毒と無毒・配合・禁忌)の柱となるのが次に掲げる「性・味・帰経」です。
【温寒】…
平
※性:中薬はその性質によって「寒・涼・平・熱・温」に分かれます。例えぱ、患者の熱を抑える作用のある生薬の性は寒(涼)性であり、冷えの症状を改善する生薬の性は熱(温)性です。寒性、涼性の生薬は体を冷やし、消炎・鎮静作用があり、熱性、温性の生薬は体を温め、興奮作用があります。
性質 | 作用 | 対象となる病証 |
---|---|---|
寒/涼 |
熱を下げる。火邪を取り除く。毒素を取り除く。 |
熱証。陽証。陰虚証。 |
熱/温 |
体内を温める。寒邪を追い出す。陽を強める。 |
寒証。陰証。陽虚証。 |
平 |
熱を取り除き、内部を温める2つの作用をより穏やかに行う。 |
すべての病証。 |
味 | 作用 | 対象となる病証 | 対象五臓 |
---|---|---|---|
辛(辛味) |
消散する/移動させる。体を温め、発散作用。 |
外証。風証。気滞証。血瘀証。 |
肺に作用。 |
酸(酸味)すっぱい。渋い。 |
縮小させる(収縮・固渋作用)。 |
虚に起因する発汗。虚に起因する出血。慢性的な下痢。尿失禁。 |
肝に作用。 |
甘(甘味) |
補う。解毒する。軽減する。薬能の調整。緊張緩和・滋養強壮作用。 |
陰虚。陽虚。気虚。 |
脾に作用。 |
鹹(塩味)塩辛い。 |
軟化と排除。大腸を滑らかにする。しこりを和らげる軟化作用。 |
リンパ系その他のシステムが戦っているときの腫れ。 |
腎に作用。 |
苦(苦味) |
上逆する気を戻す。湿邪を乾燥させる。気血の働きを活性化させる。熱をとって固める作用。 |
咳・嘔吐・停滞が原因の便秘。排尿障害。水湿証。肺気の停滞に起因する咳。血瘀証。 |
心に作用。 |
淡(淡味) |
利尿。 |
水湿証。 |
― |
【薬効】…強壮作用 鎮静作用 めまい作用 補甘腎作用 生精血作用
【薬理作用】…・血圧を下げる。
・血糖値を下げる。
・肝の強壮と回復。
・免疫賦活。
・コレステロール低下作用。
【用途】…強壮薬として肝腎を補い、虚労、腰膝の疼痛、無力感、めまい、頭痛、消渇などの症に応用します。
【学名】…Lycium chinense Mill.
【禁忌】…実熱の症状がある場合、湿をともなう脾の虚の場合は使用を避けること。
【注意】…脾虚便溏には用いない。脾虚便溏:胃腸系統が弱っていて、大便がやわらかい方
【出典】…神農本草経
【三品分類(中国古代の分類)】… 神農本草経や名医別録などでの生薬分類法
上品(不老長生薬)
【基原(素材)】…ナス科クコの成熟した果実です。
図01:枸杞子の生薬写真その1
図02:枸杞子の生薬写真その2
図03:寧夏回族自治区の名産枸杞子
図04:枸杞子の花写真
図05:枸杞子の果実写真
図06:枸杞子の生薬写真その3
本中薬(枸杞子)を使用している方剤へのリンクは次のとおりです。
杞菊地黄丸 »
生薬は、薬草を現代医学により分析し、効果があると確認された有効成分を利用する薬です。 生薬のほとんどは「日本薬局方」に薬として載せられているので、医師が保険のきく薬として処方する場合もあります。
中薬は、本場中国における漢方薬の呼び名です。薬草単体で使用するときを中薬、複数組み合わせるときは、方剤と呼び分けることもあります。
本来中薬は、患者個人の証に合わせて成分を調整して作るものですが、方剤の処方を前もって作成した錠剤や液剤が数多く発売されています。これらは、中成薬と呼ばれています。
従って、中国の中成薬と日本の漢方エキス剤は、ほぼ同様な医薬品といえます。
クコ(Lycium chinense Mill.)は河岸の土手や海辺の草地などに野生しているナス科の落葉小低木で、しばしば庭にも植えられていますよ。
茎は細くて直立せず、多数が群がって生えます。
夏から秋にかけてナスの花を小型にしたような、先が5弁に分かれた淡紫色の合弁花を咲かせますね。
果実は液果で紅熟し、多数が連なった姿が美しいです。
古来、樹皮、根皮、果実などが薬用にされ、近年はとくに果実の利用が多い。和名は漢名の枸杞に由来しますね。
完熟した果実を乾燥したものが枸杞子で、新鮮な時には卵形~長卵形でグミに似ていますが、乾燥すると両端が尖って紡錘形を呈しますよ。
新しいものは朱色で、時間が経つにつれて黒みが増して暗赤色となります。
滋陰作用がある補益薬として肝・腎の陰虚を補う薬物とされ、めまい、視力減退、精力減退、腰脚の無力感などに応用され、中国では古来健康食品として日常的に食されてきました。
甘みがあって食べやすく、中には扁平で小さな種子が多数入っていますよ。
果実酒としても利用され、寧夏(ねいか)産の枸杞子はとくに有名で、同属のナガバクコ(Lycium barbarum L.)が栽培利用されています。
現行の「日本薬局方」には枸杞子とともに根皮に由来する地骨皮(ぢこっぴ)も収載されています。
管状または半管状をした軽くて折れやすい皮片で、清熱薬として血熱を冷まし、肝・腎の虚熱を清解する薬物として用いられます。
またクコは葉も枸杞葉(くこよう)と称して代用茶の原料とされるほか、新鮮なものは野菜として調理して食すと美味で、甜菜(てんさい)(甘い甜菜の意)とも称されることが宋代の「図経本草」に記されています。
ただし、葉を摘む際には葉腋に生える小枝が変化した鋭い針状の刺に注意が必要ですよ!。
枸杞子が配合された処方として杞菊地黄丸がよく知られています。
六味丸に枸杞子と菊花を加えたもので、高齢者の疲れ目やかすみ目に用いる機会が多いですね。
陰を補う同効生薬としては他に、黄精、麦門冬、石角斗、百合、亀板、鼈甲などがあり、これらの薬物は社会人口の高齢化に伴い、ますます需要が多くなることが予想されますね!。
1.【神農本草経】(西暦112年)
中医薬学の基礎となった書物です。植物薬252種、動物薬67種、鉱物薬46種の合計365種に関する効能と使用方法が記載されています。
※神農:三皇五帝のひとりです。中国古代の伝説上の人といわれます。365種類の生薬について解説した『神農本草経』があり、薬性により上薬、中薬、下薬に分類されています。日本では、東京・お茶の水の湯島聖堂 »に祭られている神農像があり、毎年11月23日(勤労感謝の日)に祭祀が行われます。
2.【本草経集注】(西暦500年頃)
斉代の500年頃に著された陶弘景(とうこうけい)の『本草経集注(しっちゅう)』です。掲載する生薬の数は、『神農本草経』(112年)の2倍に増えました。
松溪論畫圖 仇英(吉林省博物館藏)
陶弘景(456~536年)は、中国南北朝時代(420~589年)の文人、思想家、医学者です。江蘇省句容県の人です。茅山という山中に隠棲し、陰陽五行、山川地理、天文気象にも精通しており、国の吉凶や、祭祀、討伐などの大事が起こると、朝廷が人を遣わして陶弘景に教えを請いました。
そのために山中宰相と呼ばれました。庭に松を植える風習は陶弘景からはじまり、松風の音をこよなく愛したものも陶弘景が最初です。
風が吹くと喜び勇んで庭に下り立ち、松風の音に耳をかたむける陶弘景の姿はまさに仙人として人々の目に映ったことでしょう。
3.【本草項目】(西暦1578年)
30年近い歳月を費やして明代の1578年に完成された李時珍(りじちん)の『本草項目』です。掲載する生薬の数は、約1900種に増えました。
『本草綱目』は、1590年代に金陵(南京)で出版され、その後も版を重ねました。わが国でも、徳川家康が愛読したほか、薬物学の基本文献として尊重され、小野蘭山陵『本草綱目啓蒙』など多くの注釈書、研究書が著されています。
本草綱目は日本などの周辺諸国のみならず、ラテン語などのヨーロッパ語にも訳されて、世界の博物学・本草学に大きな影響を与えています。
儒者・林羅山(1583~1657年)の旧蔵書
李時珍(1518~1593年)は、中国明時代(1368~1644年)の中国・明の医師で本草学者。中国本草学の集大成とも呼ぶべき『本草綱目』や奇経や脉診の解説書である『瀕湖脉学』、『奇経八脉考』を著した。
湖北省圻春県圻州鎮の医家の生まれです。科挙の郷試に失敗し、家にあって古来の漢方薬学書を研究しました。30歳頃からあきたらくなって各地を旅行し調査したり文献を集めたりはじめます。ついに自分の研究成果や新しい分類法を加え、30年の間に3度書き改めて、1578年<万暦6年>『本草綱目』を著して、中国本草学を確立させました。
李時珍、生家にて »
4.【中医臨床のための中薬学】(西暦1992年)
現在、私が使用している本草の辞典です。生薬の記載個数は、約2,700種に増えました。
神戸中医学研究会の編著です。
【薬用部分】…
betaine,ほかにビタミンA、B1、B2、C、カルシウム、リン、鉄、色素のzeaxanthinなどです。
【中国での一般的服用量】…6~15g
枸杞子の果実写真