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病邪によって肺の宣散・粛降の機能が障害されたもので、実証あるいは虚実挾雑に相当します。病邪の種類によってさまざまな症候があらわれますが主症状は咳漱・喀痰です。

@寒邪犯肺・風寒束表
寒邪の侵襲による肺の障害で,風寒による表証(表寒)をともなうものが風寒束表で,表証がなくなり肺の寒症だけがみられるものを寒邪犯肺といいます。
風寒束表(表寒)は体表血管の反射性収縮と汗腺閉塞によるもので,寒邪犯肺は気管上皮の血管収縮とそれにともなう血管透過性亢進によるものと考えられます。
感冒・イソフルエγザ・肺炎の初期・気管支炎・アレルギー性鼻炎などで見られます。
【弁証】
咳漱・呼吸困難・うすく透明の痰が多量に出る。胸苦しい,横になれない。
舌苔は白,脈は緊。表証をともなうときは,悪寒・頭痛・鼻閉・くしゃみ・身体痛・脈浮緊などがみられる。
【論治】
宣肺散寒で,表証があるときは辛温解表を行う。麻黄・桂枝・紫蘇葉・荊芥・防風・白花・細辛・生姜などの辛温解表薬に,杏仁・蘇子・半夏・紫苑などの温性の法疾止咳薬を配合する。
【代表方剤】
風寒束表には、
●辛温解表剤…麻黄湯・三助湯・荊防敗毒散・桂皮湯など。
寒邪犯肺には、
●杏蘇散・華蓋散などを用いる。
A熱邪犯肺・風熱犯肺
熱邪の侵入による肺の障害で,風熱による表証(表熱)をともなうものが風熱犯肺で,表証が消失し肺熱の症候だけのものを熱邪犯肺といいます。
いずれも気道の炎証によるものと考えられる。
感冒・インフルエンザ・咽喉炎・扁桃炎・気管支炎・肺炎・肺化膿症などでみられます。
【主症状】
咳漱・呼吸困難・息があらい,黄色で粘桐な疾が出にくい。咽が痛い・口渇・尿が濃い。
舌質は紅。脈は数などの症候。、風熱表証をともなうときは,かすかな悪感あるいは熱感・咽喉部の発赤と腫脹惨痛・黄色の鼻汁などがみられます。
胸痛・血液をまじえた悪臭のある膿性喀痰・舌苔は黄・脈滑散の時は,肺癰(肺化膿症)であり,全般に発熱がみられることが多いです。
【論治】
清熱宣肺・止咳平喘で,風熱表証には辛涼解表,肺癰には清熱解毒排膿を行う。薄荷・牛芽子・輝退・桑葉・菌花・淡豆鼓・葛根などの辛涼解表薬。石膏・知母・山楯子・黄苓・金銀花・連翅・板藍根などの清熱・解毒薬,漸貝母・蒲公英・桔梗・重薬・慧玖仁などの怯疾・排膿薬,杏仁・桑白皮・枇杷葉・馬兜鈴などの止咳平喘薬を配合します。
【代表方剤】
●辛涼解表剤…麻杏甘石湯・潟白散・定喘湯など。 表証をともなうときは、
●辛涼解表剤…桑菊飲・銀翅散など。 肺瘴には、
千金葦茎湯などを用います。
B燥邪犯肺
燥邪による肺の障害で,秋季や乾燥した環境にみられ,乾燥による皮膚・粘膜の急性の脱水と炎症と考えられます。
秋季の感冒・気管支炎・インフルエンザ:ポリオ:ジフテリアなどでみられます。
【主症状】
乾咳・痰は少なく粘桐で喀出しにくい,鼻や口のかわき,咽の乾燥と痛み,皮膚の乾燥,胸痛。
舌質は紅で乾燥,舌苔はうすく乾燥,脈は細数。
表証をともなうもので悪寒・脈浮緊のものを「涼燥」,熱感・口渇・脈浮数のものを「温燥」といいます。
【論治】
清肺潤燥です。涼燥には辛温解表・宣肺潤燥。温燥には辛涼解表・宣肺潤燥を用います。
発汗力の弱い桑葉・淡豆鼓などの辛涼解表薬あるいは紫蘇葉などの辛温解表薬,杏仁・貝母・百部・桑白皮・枇杷葉・馬兜鈴などの清熱・滋潤の化疾薬。梨皮・沙彦・玉竹・麦門冬などの滋陰薬を配合します。
【代表方剤】
温燥には桑杏湯・清燥救肺湯。涼燥には杏蘇散など。
C痰飲伏肺
痰飲による肺の障害で,外感病をくり返して肺の宣散粛降が十分できなくなったり,脾気虚のために津液が停滞して,痰飲が発生し気道に貯留したものです。
慢性気管支炎・喘息・肺気腫・気管支拡張症などでみられます。
【主症状】
咳漱,うすい白色の痰が大量に出ます。
喀出しやすいが次々出る。喉でゴロゴロ痰の音がします。胸苦しい,寒け,背中が冷たい。はなはだしければ呼吸困難となります。
舌質は淡白,舌苔は白鼠,脈は弦滑あるいは軟緩です。
【論治】
燥湿化痰である。蘇子・紫苑・款冬花・半夏・陳皮・白芥子などの止咳・燥湿・化疾薬と白丸・決苓などの淡惨利湿薬を配合し,必要なら乾姜・細辛・白花などの温肺薬を加える。表証をともなうときには,辛温解表薬を配合する。
【代表方剤】
二陳湯合三子養親湯・苓桂乖甘湯・苓甘姜味辛夏仁湯・蘇子降気湯など,表証をともなうときは小青竜湯など。
D風水相搏
風邪によって肺の宣散粛降が阻害され、「水道を通調する」作用が障害された結果,浮腫を生じたもの。腎炎の初期などに見られます。
【主症状】
急激に発生する全身の浮腫で,初めは眼瞼からはじまり全身に広がります。とくに顔面部に顕著,皮膚に光沢があり圧すると陥凹するがすぐもとにもどります。尿量は減少し,咳漱・発熱・悪風・咽痛などの表証をともなうことが多いです。
舌苔は薄白。脈は浮。衛気虚をともなうときは自汗・悪風がみられます。
【論治】
疏風宣肺利水で,麻黄・浮薄・防風・紫蘇葉・生姜皮・桂皮などの解表薬に,'決苓・沢潟・猪苓・慧咳仁などの淡彦利水薬を配合します。
口渇など裏熱の症候があれば石膏・桑白皮・芦根などを加えます。衛気虚には,黄脅・白丸などを加えます。
【代表方剤】
●辛涼解表剤…越婢加朮湯。
衛気虚には、
●利水滲湿剤…防己黄蓍湯。